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         「どこかで春が」

大学院地域政策研究科博士前期課程 2009年修了 山本 えり奈

 北海道の小さな村に暮らすようになってから、三回目の冬が過ぎようとしています。真冬の気温はマイナス20度以下にもなる、北海道の中でも有数の極寒地。雪に覆われた大地、観光施設もほとんど閉まり、旅行者の姿もなく、村は静けさに満ちています。冬の間は畑もお休みで、農作業をする人もトラクターの姿も見かけません。遠出の機会も減り、家で仕事をしながら過ごすことが多くなりました。

 しかし、はじめはその寒さを不安に思っていた冬も、三度目の季節を迎える頃には、秋の深まりとともにわくわくとした心持ちを感じるようになっていました。三月、まだなお畑は雪景色。はじめてここに住んだときには、まだまだ冬は終わらないと思っていましたが、今は雪の下の地面からわき起こる小さな生命の息吹を感じ取れるようになりました。雪に覆われた風景は一見何もなく見えますが、どこかで春が生まれている、そんな想像力をかきたててくれるのです。

 帯広に本社を置く、北海道の代表的なお菓子メーカー・六花亭。その文化活動のひとつに、毎月発行される『サイロ』という子どもたちの詩を集めた詩集があります。50年以上の歴史のあるこの詩集の表紙を長年描いていたのは、六花亭の包装紙で知られる山岳画家の坂本直行さん。1960(昭和35)年に発行された第一号の表紙には、雪積もるサイロのある家で、布団ですやすやと眠る子どもたちの様子が描かれています。子どもたちが見る夢の中に、育まれていく想像力。言葉を生み出し、感性を培う大切な時間。この絵にはそうした十勝の冬が描かれているように感じました。

 毎日風もなく、晴天が続く十勝の冬の天気は、「十勝晴れ」と呼ばれています。雪の上に点々とのこる足跡はリスかキツネかと考えたり、雪の下では小麦の芽が伸びているかと想像したり。静まり返った穏やかな風景を眺めながら、あれやこれや思いをめぐらす。そんな雪に包まれ育まれた感覚を、詩や歌や絵にのせて。この土地で育つ子どもたちと一緒に表現していけたらと思います。

 次回は、一緒に大学院生活を過ごした深町裕子さんにお願いしました。