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                                 1995年卒 横市 勇
                                       
「小さな縁」

 今から20年前。親父が運転する軽自動車のライトバンに布団などを詰め込んで、高崎のアパートへ引っ越した。空は鉛色。すぐにも雨が落ちてきそうだったが、国道17号から見えた榛名、妙義の山がすぐ目の前に感じた。

 生まれ育った埼玉から縁もゆかりもない群馬で大学生活を送った。電車に乗れば実家から1時間半。そんな身近な距離なのに、群馬出身の同級生たちが「○○なんさ」「○○なんかい?」と、聞いたことない語尾をつけて会話していることに驚いた。

 大学卒業後は新聞社に入り、野球記者をしている。当時よりも今の方が群馬と強い縁を感じている。駆け出し記者の頃には前橋で働き、高校野球を取材し99年には群馬県代表の桐生一が県勢初の甲子園優勝を飾った。そして今は太田市出身で早稲田実エースとして06年甲子園を制し、早大からプロ野球・日本ハムに入団した斎藤佑樹を追いかけている。「ハンカチ王子」と騒がれたあの青年である。

 先日、1週間の出張から埼玉にある現在の自宅に戻ると、5歳になる娘から「お父さんに手紙を書いたよ」と手渡された。ミッキーマウスがプリントされている可愛らしい封筒の中に同じ背丈と身なりで、似たようなバックを肩から掛けている仲の良さそうな2人の絵が描かれていた。

 「これは誰?」と問うと、娘は「お父さんと王子くん」と答えた。どうやら「王子くん」とは斎藤佑樹のことを指しているようだった。

 このことを斎藤佑樹に話した。

 「佑ちゃん、これを見てよ」

 携帯電話の写真で撮影した作品を見せながら「ウチの娘が描いたんだけれど、オレと佑ちゃんらしいよ」と説明すると、携帯電話の画像にのぞき込んだ人気者は「本当ですか。どっちがどっちか分からないですね。でもありがたいです」。そして、屈託のない笑顔を見せてくれた。私が大学生のときに誕生した姉の子ども――、つまり、私にとって2人の姪っ子は今や大学生&高校生だ。その妹の方は、ジャニーズのアイドルグループ「嵐」の相葉雅紀と斎藤佑樹のファンだという。

 気にもしていなかったが、斎藤佑樹とは実に17歳も年齢差がある。そう考えると、もうすぐ40歳になるオッサンが相手でも、あの国民的人気者から随分と気さくに対応してもらっている。たかが群馬、されど群馬。しかも、高崎と太田ではちょっと違うような気もする。すぐにも切れてしまいそうな細い共通点を、今はちょっとだけ感謝してみよう。