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                                 1963年卒 村田 繁
                                       
「風を呼べ。志(こころざし)の高経大野球。」

 徳川四天皇の一人、井伊直政は群馬県南西部に築城の際、この地に向けて「成功高大」の志をこめて我が城を作ったと伝えられる。これが高崎という地名の由来とされる。
 直政の"志"は、明治、大正を経て。昭和、平成の時代へ立派に受け継がれてきた。日本国の舵を取る、総理大臣に、中曽根氏、福田赳夫、康夫氏の親子、小渕氏と四人も輩出している。
 このような"大志"を抱くに十分な土壌の地に、市立、公立高崎経済大学は建つ。
 四十歳を不惑というが、この身、七十一歳をもってしても、まだまだ惑うこと日常茶飯事である。迷いも苦難も、さらりと流し善へと向かう柳のごとしには、灰になるまでなり得ない。
 しかしながら、高崎の地で学んだ向上心と社会に出てから先人に教えられた"志を持とう"の人生訓は、ひと時も忘れず生きてきた。
 平成の春秋、大学の後輩、硬式野球部員へ語りかける。
 「自己の確立だ。このグランウンドに立つ、その時、その時に、しっかり志を持つ自分を認識しよう」
 孫よりは年配だが、息子よりは若い世代の経大野球部員との日々。
 そう、私はいま、母校の硬式野球部監督を一昨年の六月からつとめている。
 昭和三十八年卒業とともに、新聞社の野球記者になり、その後、プロ野球オーナーの招請を受けパリーグ事務局長を二十年間つとめた。この間、たくさんの名選手、長島、王、張本、金田、稲尾、杉下、杉浦さん、監督としては西本さん、古葉さん、仰木さん、上田さんらに多くの薫陶を受けた。パ・リーグの人気、実力を、セ・リーグに追いつけ、追い越せ、の必死の二十年間であった。プレーオフ(現クライマックス)設立、フランチャイズ分散、札幌へ仙台へ、千葉へと、当時、東京圏から福岡までの日本列島半分しか使っていなかったリーグを、全国に分立すべく、"志"の実現へ働いた。
 挫折の連続でもあったが、それを乗り越えられたのは、志を持ち続けられたことに尽きる。
 約30人くらいの部員たちへ問う。
 「君たち、何のために野球の部活動をしているの?」
 「就職に有利だから・・・」「野球が好きだから」「健康と強い精神を持ちたいから」
 それぞれに、硬式野球をやる動機を語る。
 私は、彼らの応答を聞いたうえで、こう語りかける。
 「硬式野球は遊びでは出来ない。しっかりした目的、志がなければ、怪我して一巻の終わりだよ。私はアマでもプロでも、すごい素質のある選手が、あっさり消えていった例をたくさん見てきたよ」
 部員たちの顔が、みるみる緊張する。厳しい練習かな?楽しみたいと入部したのに、といいたそうな気持ちが手にとるようにわかる。
 そこで彼らの不安をとり除く。
 「まず、授業、ゼミ優先だ。バイトもOKだ。自分で時間をつくり、部活をするんだ。ある有名大学の野球部は、朝八時から夜八時まで練習する。そんな大学とは違う。授業をしっかり受けてからグラウンドに立つんだ」
 特に、下級生は、これで安心し、好きな野球への情熱を燃やす。大学野球をする目的は何か、私には信条がある。自身の経験と、球界で生き抜いた積み重ねられたものから得たものだ。
 「いま、そして明日へと、我々は人生を生き抜く力を養う日々だ。目的はそれしかない。勝つ、負ける、そんなことより、前に向かって、常に努力できる心身を養う、それが出来る人間になろう」
 どこまで理解し、自己を見つめられるか、四年間で、卒業していく学生を送る時、確かな手ごたえを感じられることが多くなり、監督冥利を感じられる。
 技術的には4C(control制球)(condition整体)(concentration集中)(confidence自信)を練習で身につけ、試合で発揮する。各自の競争の中で、和してチームの勝利を目指すのである。
 精神的・技術的な二本の柱を主に指導し、昨秋には関甲新19大学、一部、二部、三部の二部ながら、国公立8大学のトップ、三位となった。関甲新リーグのレベルは高く、全国28大学連盟の中でベスト8に入ると、評価され、上武、白おう、山梨学院など、百人を越える部員が全国から集まる。人工芝のプロ野球並みの自グラウンドを持ち、寮も完備され、高慶大とは環境が違う。一部と二部2校の上をいくのは、正直大困難だが、志はある。いつの日にかは"考える野球"で一部へ昇格したい。
 私は夏には七十二歳となる。ノックの打球速は落ちてはいるが、気力はある。五十年を越える高経大の硬式野球は不滅である。(終)
〔関甲新19大学ランキング〕2010、秋季
(1部)
 @上武大 A平成国際大 B白おう大 C関東学園大 D山梨学院大 E常磐大
(2部)
 F作新学院大 G松本大 H高崎経大 I新潟大 J宇都宮大 K埼玉大
(3部)
 L茨城大 M信州大 N山梨大 O群馬パース大 P群馬大 Q東京福祉大 R長野大
 村田 繁
  昭和38卒。高経大硬式野球部監督。東京運動記者クラブ会友。群馬テレビコメンテーター。前、パリーグ事務局長。大学時代は投手、内野手、主将。