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                                  1969卒  原田 健作

 「女性に学ぼう60歳代以降の生き方」

 『随想』というからには心に移り行く由なきことを(由あることも)そこはかとなく書き綴ればいいのだろう。
 厚生労働省の発表によると2009年の日本人の平均寿命は男性79,59歳(世界5位)女性は86.44歳(25年連続世界1位)である。男女差6.85歳と大差がつぃている。男も女もほぼ同じ人数だけ生まれているのにどこでこのような差がついたのだろう。厳密に言うと出生数は男の方が約13万人多く、0歳から49歳までは男性人口の方が女性人口を上回っているのだ。50歳でやっと女性人口は男性に追いつき、55歳前後で逆転し、それ以降は男性人口が女性を上回ることはない。特に60歳代後半からは男性人口は女性に引き離される一方となる。

 私は2007年に勤務していた会社を定年退職した。人生80年の時代に60歳で隠居するのは早過ぎるし、女房にとっても亭主は元気で留守でいてくれるのが一番だろうと考え、書き物がしたい事情もあって図書館通いが日課となった。数か月経った頃、女房に「あなたの話し方、最近ちっとも要領をえないわよ」と指摘された。なるほど、図書館の社会人席は殆んど無声、無音の世界だし、女房と会話するだけの毎日では社会性がなくなり言語障害にも陥るというものだろう。しからばとスケジュール調整しながらカルチャー教室に通うことにした。カラオケ、パソコン、低山ハイク、英会話などだ。(同時に4つもやったのではなく時期をずらしてこれらを経験したということだ)こういう教室にはさぞかしリタイア後の男性が一杯来ているだろうと思ったが、どっこい、どこも女性ばかり。パソコン教室は3割くらい男性がいたが、半年間だけの講習だったせいか男性が割に多いとは感じなかった。現在はカラオケと英会話をやっているが、どちらの教室でも男性は私一人、たまに男性が入門してもどういうわけか、長続きせず、殆んど「黒一点」という状態が続いている。

 女性軍は50歳代から60歳代が中心で、主婦業をこなしながらカルチャー教室を2つ位掛け持ちし、ボランティア活動や親の介護までやっている人もいる。にもかかわらず、みんな知識を吸収することに貪欲だし、コツコツと練習(復習)する姿勢には頭が下がる。とにかくどの教室でも女性が元気で男性の影が薄いことは間違いない。彼女たちは地域社会に根付いていて有形、無形の役割を担い、一日の限られた時間をやりくりして活動する時間を捻出するのが実にうまい。ではカルチャー教室に通う女性たちだけが特別に前向きな人間なのであろうか。どうもそうではなさそうだ。世の多くの女性はみな、この人たちほど精力的ではないにしてもそれなりに頑張っているように思える。男性はどこでどうしているのだろう。私の見る限り、年を取っていてもやたら元気な人とそうでない人にはっきり分かれると思う。生涯現役で仕事をしている人は、どこか輝いていて「年齢不詳の若さ」を武器に出来る位溌剌としている。しかしそういう人は数から言うとかなり少数派で普通の人は60歳から65歳で仕事を離れる。仕事を離れ(リタイア)ても、意識して外に出かけている人は若さを失わない。ところが永年にわたって仕事をしてきたから、もういいだろうと毎日を日曜日にしたがる人が大半だ。

 朝からテレビの前でゴロ寝し「おーい、お茶」「おーい、メシ」と体を動かさないで済む生活を始めてしまうと坂道を転がるように心身共に老いていく。10年もすると正真正銘の『ジジイ』に成り果てる。病院に行ってみると分かるが、高齢の男性は診察を受けるのに奥さんの付き添いを必要とするのに対し、女性は一人で診察を受けて一人で帰って来るのが普通だ。リタイア後の男性は自立出来ている人は極めてわずかで自分一人では食べること、着ること、住むこと、どれもままならなくなる。自称、「充電中」と言いながら、なぜか最後まで充電が終わらない人の多いこと…。かたや女性は生涯現役の主婦業を続けながら、いろいろのことに精を出す。これではどんなに逆立ちしても男性は女性に勝てっこない。

 超長寿時代はリタイア後の人生が長い。晩年の人生を実りあるものにするか惰性だけで生きるかは本人の心掛け次第だ。大病をしなければリタイア後の人生は15〜20年も残っている。何か一つのことに5年ずつ徹底して取り組んでも3〜4つの事が出来るではないか。─60代、いや70代以降の人たちにも呼び掛けよう。家に引きこもっていないで外に出よう、女性に学ぼうと─