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                                1964年卒業 木村 武彦

『「絆」を大切に』

 作家の伊集院静氏が週刊誌のエッセイで、20年ぶりに恋愛小説を書いたと語っていたので、街へ出掛けた序に買ってみようと思った。彼は硬骨漢だが、女性遍歴は凄い。京都祇園の美人芸妓、清楚で美しい女優、和服の似合う現夫人。男としてこんなすてきな伴侶とせめて一度でも人生経験してみたい。その為には、どれ程の魅力的な男でなければならないのか。残念ながら、僕はもう69歳。アラセブンだ。しかし男の魅力は失いたくない・・・と思って本屋を探した。目指す旭屋書店はもう二年前に閉店。10分程歩いて、記憶を辿りながら確かここだと思った角の店はスタバに替っていた。漸く銀座の教文館で求めることが出来たが、本屋を探すのも一苦労だ。
 その晩、友人に話したら、ネットを使ってアマゾンで買えばいいのだと一笑された。翌朝の通勤電車の中、成程大半の乗客が携帯画面に集中し、新聞や雑誌を読む人はほんの僅かだ。スティーブ・ジョブズがパソコンを世の中に登場させてから30年ちょっとしか経っていない。その間に人々のライフスタイルはすっかり変わってしまった気がする。そこへiPod、iPhoneが出て、今またiPadだ。iPadは革命的で魔法のような機器だという。実物は未だ見ていないが、世の中の常識を変えてしまう傑物らしい。
 本屋がアマゾンに替り、喫茶店がスタバや携帯ショップとなり、買物がネットショッピングになると、人はますます孤独になってゆく。
 便利になるのは確かに有難いが、一方で失われるものも多い。人と人の連帯感が希薄になり、犯罪が多発し、人間社会は殺伐としてくる。
 日本人は「縁」とか「絆」とかいう言葉や概念が好きだ。何かのチャンスで知り合い、その「縁」を大切にしながら語り合い慈しみ合って「絆」になりお互いの交流が深まってゆく。
 私は高経大5回生('64年卒)で、東京三扇会(東京支部)の代表でもある。世の中がネット社会になればなる程、人と人が出合い、語り合うことが必要だと確信している。チャンスが無いがために、同窓会に出られない人を探し出し、手を差しのべたいと思っている。余計なお世話だと言われようと、青春時代を共に過ごし、夢を語り合った人達の再会こそ、失ったものを取り戻す、又とないチャンスだと思っている。
 懐かしい出合いが小さな輪をつくり、やがて大輪となって拡がり、人と人の絆が大きく成長したら、私達、同窓会幹事の使命は完成する。 そんな思いを、ネットのリレー随筆に投稿すること自体、皮肉といえば皮肉でもある。